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  • 6月26日(木)27日(金)「全国ゆりサミット in 新潟 2025」が開催されました。

「全国ゆりサミット in 新潟 2025」開催

イベント概要

「全国ゆりサミット in 新潟 2025」は、2025年6月26日(木)・27日(金)に新潟市のANAクラウンプラザホテル新潟にて開催されました。テーマは「希望のゆり~次世代へ続く~」で、新潟県が全国有数のユリ切花産地である地の利を活かし国内ユリ産業の未来を展望する大会となりました。本サミットは2015年の埼玉県での初開催を皮切りに、2019年には高知県で開催されており、今回が3回目の開催です。当日は全国各地から生産者・関係者ら300名以上が参加し、熱気に包まれる中、多彩なプログラムが展開されました。

代表者会議

サミット初日正午からは代表者会議が開催され、全国の産地代表者や関係者が一堂に会して今後の全国的な取り組みや地域間連携について協議しました。この会議では産地ごとの現状報告や課題の共有が行われ、ユリ業界全体で協力していくための情報交換の場ともなりました。

本大会

主催者あいさつ
全国ゆりサミット in 新潟 2025実行委員会
会長 豊島正人氏

開催県あいさつ 
新潟県知事 花角英世氏

来賓祝辞
農林水産省農産局園芸作物課花き産業・施設園芸振興室長
大塚祐一氏

来賓紹介
チリ大使館商務・農務参事官
ヌリ・ディセニ氏

全国ゆりサミット in 新潟 2025実行委員会
会長 豊島正人氏

新潟県知事 花角英世氏

農林水産省農産局園芸作物課花き産業・施設園芸振興室長
大塚祐一氏

チリ大使館商務・農務参事官
ヌリ・ディセニ氏

記念講演 第1部:リアン・フレッター氏(フレッター&デンハーン CEO) 演題:「未来に向けたユリ品種の導入は私たちとあなたとの共同作業」

    • ゆり産業のフロー: 育種会社から消費者に届くまでの各段階(球根生産者、輸出業者、輸入業者、切花生産者、卸売業者、小売業者)を説明しました。
       
    • オランダゆり産業が直面する5つの課題:
      1. 気候と環境: 極端な気象現象の増加、化学物質使用への法規制強化、環境負荷(エネルギー消費、CO2排出)の最小化が求められている。
      2. 土地の利用可能性: 都市化の進行、自然保護区の拡大、他作物との競合により、ゆり栽培に利用できる土地が制限されている。
      3. 品種の入手可能性: 生産者数の減少と大規模化により、特定の品種の安定供給が少数の生産者と圃場に依存し、リスクが高まっている。
      4. 労働力: 人件費の急激な上昇(5年間で2倍)により、機械化・自動化への投資が不可欠となり、品種選定においても機械処理のしやすさが重要基準となっている。
      5. 生産者と労働者の高齢化: 若年層の農業離れ、企業の世代交代の難しさ。
         
    • 機会と解決策:
      • レーザー技術による除草: 無農薬で雑草を駆除するロボット開発が進み、収量増加の可能性も秘めている。
      • スポット散布ロボット: 除草剤の使用量を95%削減できる。
      • LMoV(ユリ微斑ウイルス)の遺伝子マーカー: 特定の遺伝子を持つ品種のウイルス抵抗性を早期に特定し、育種・選抜プロセスを加速。
      • 点滴灌水: 水と肥料の使用量を効率化。
      • 液体シールと特殊フィルム: ピートモスを使用しない梱包材の開発。
      • 病害(PlAMV)対策の栽培戦略: ウイルス対策として、隔離栽培と一方通行のストック更新(古いストックの再利用禁止)が不可欠。
      • 栽培年数削減の栽培戦略: 極端な天候や土地制限、農薬規制により、2年栽培から1年栽培への移行が模索されている。
      • 新しいタイプのゆり: LA八重、OT八重、無花粉、TAといった多様な品種開発が進み、経済的で持続可能な栽培を可能にする。
         
    • 成功には業界全体の活発なコミュニケーションが不可欠であり、日本は作物の高い知識と新品種への伝統的な好奇心を持つため、将来を見据えたゆり開発をサポートする立場にあると述べました。

記念講演 第2部:久保寛史氏(全国市場リリーアンバサダー協議会会長) 演題:「オランダゆり最新レポート」

    • 研修旅行の目的: オランダにおけるゆり球根生産者の位置づけ、ゆり産業における日本の位置づけ、生活インフラ(スーパーマーケット)での販売視察。
    • Royal FloraHolland: 世界最大規模の生花市場で、持続可能性への意識が非常に高く、環境認証(MPS, FSI2020)の導入を推進している。
    • デジタル化の推進: オンライン取引(フロリデイ)、デジタルセリ、音声指示システム、ロジスティクスの自動化が進んでおり、高い効率性を実現している。
    • 球根生産(Boltha BV): レーザー除草機、AIウイルス検出、自動選別機を導入し、水・肥料使用量を30%削減。将来的に品種数を削減し、病気に強いOT系を拡大、無農薬栽培を目指している。
    • ゆり切花栽培現場(Moerman Lilium / Novastar): 高品質な八重咲きに特化し100%有機栽培を目指すMoermanと、効率化と環境配慮を追求しスーパーマーケット向けに密植栽培や自動化を進めるNovastarの事例を紹介。
    • ゆりの育種のその先(Zabo Plant / Vletter & Den Haan / Royal Van Zanten): ロスの少ない品種、病害虫に強く環境負荷の低い品種、無花粉品種の開発、ピートモスを使わない梱包材の検討など、環境と持続可能性を重視した育種が進められている。
    • 英国の持続可能な生産と自動化: ココピート使用、バイオマス燃料暖房、自動化システム導入(自動球根植え付け、移動ベンチ、自動パッキング)でコスト削減と効率化を図っている。
    • 研修から得られた学び:
      1. 環境問題と持続可能性への意識: オランダ・英国ともに農薬削減、有機栽培、代替培地への移行が重要テーマ。日本市場も影響を受ける可能性。
      2. 消費者ニーズへの対応: 海外では3-4輪咲きが主流でコストが低い。日本でも3-4輪の価値を広め、品種の柔軟性とコスト低減を図る戦略が必要。
      3. 規模とテクノロジー: 海外の大規模生産と機械化に驚き。日本でも効率化のため共同作業や一部機械導入の検討が必要。
      4. 生産者と市場の連携: 海外では生産者が自身の花の販売先と価格を把握している。日本でも生産者と市場・卸売業者間の連携強化が必要。


 
 

パネルディスカッション:テーマ「求められる次世代のゆり産業」

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  • コーディネーター: 金藤公夫氏(アイバルブ・ジャパン代表)。
  • パネリスト: リアン・フレッター氏、平出賢司氏((有)エフ・エフ・ヒライデ代表)、五十嵐大輔氏(JA魚沼花き園芸センター係長)、久保寛史氏((株)なにわ花いちば営業部課長)、八ツ田修司氏((株)大田花き営業本部商品ユニット第二チーム)。
  • 共通認識: オランダ研修で「ゲームチェンジ(ルール変更)」を実感。社会的な責任と持続可能性が産業の前提となり、後戻りはないため、この新たなルールの下でいかに価値を再構築していくかが重要。
  • 生産者の視点(平出氏、五十嵐氏):
    • 平出氏: 世界の現状を把握した上で、皆で知恵を出し合い、コミュニケーションを密に取る必要性を強調。「美Lily7034」(前処理済み70cm以上3~4輪の八重ユリ)が新たな価値を生み出した例を挙げ、コミュニケーションによる価値創造の可能性を指摘。
    • 五十嵐氏: 海外での切花の個人消費の高さ(お菓子代わりにお花を贈る文化)に感銘を受け、日本でもコンパクトなサイズ(80cm、3~4輪)のゆりの普及が重要であると提言。これにより消費者が買いやすくなり、生産コスト・流通コストの削減にも繋がると述べました。また、栽培技術の継承(マニュアル化)と若手生産者・従業員の育成が、高齢化と担い手不足が進む産地にとって不可欠であると強調。
  • 市場・流通の視点(久保氏、八ツ田氏):
    • 久保氏: 病害虫に強く環境負荷の少ない八重咲きや無花粉といった多様な品種の早期導入に期待。安定した品質と供給の重要性を訴え、日本でも生産者と市場間の連携強化が今後不可欠となると述べました。
    • 八ツ田氏: 新品種導入の難しさ(オランダとの気候の違い、開発に長年月要する点)を指摘し、オランダとのより密なコミュニケーションによる日本に合う品種の模索が課題であると述べました。物流面では「2024年問題」を挙げ、冷蔵管理の徹底など品質維持と、生産者からの正確かつ鮮度の高い情報提供(栽培計画など)を市場が販売計画に活かすことで、計画的な生産販売を可能にしたいと述べました。
リアン・フレッター氏のまとめ: 研修の価値を再確認し、日本市場における3-4輪のカジュアルなゆり普及への取り組みを評価。育種から消費者に届くまでのバリューチェーン全体が情報を共有し、連携していくことの重要性を改めて強調し、新たな価値の創造はまさに「共同作業」であると締めくくりました。

共同声明

主要な4つの宣言項目:
  1. 花きの伝統文化継承と需要喚起: 次世代の産業を支え、ゆりが持つ癒しの力を発信し、時代やライフスタイルの変化に対応した新たな花き文化を創造し、消費拡大を目指す。
  2. 地域花き産業振興と産地活性化: ゆりをはじめとする地域花き産業の振興を図り、産地の活性化につなげる。
  3. 産地・業界間の連携強化: 災害時の相互支援を含め、生産する産地と業界で連携し、競争から協力へと関係を強化する。
  4. 生産者課題と消費動向の共有・次世代への継承: 生産者課題と消費動向の共有を図り、次世代へ続く取り組みを積極的に行う。

ユリ新品種命名式

夕方にはユリ新品種命名式が行われ、今回のサミットに合わせて誕生したユリの新品種のお披露目と命名が実施されました。会場の円卓、ステージ上で新しいユリがお披露目され、品種名が発表されると、会場は大きな拍手に包まれました。日蘭の絆を象徴する「ファン ゴッホ」と名付けられたユリは、ゴッホの描いた未来への希望の黄色に輝き、本サミットのテーマにもちなんだ名前が与えられ、参加者からは「未来へ希望を繋ぐ象徴的な品種になることを期待したい」といった声も聞かれました。

 

交流会

26日午後6時からは参加者同士の親睦を深める交流会が開催されました。各テーブルでは活発な交流の輪が広がりました。特に基調講演を行ったフレッター氏や久保氏を囲んでの意見交換は盛況で、参加者から海外事情の詳細な質問が飛び交う場面も見られました。終盤には地元新潟の地酒で乾杯が行われ、和やかな雰囲気の中、全国規模のネットワークづくりが進んだ有意義な交流の機会となりました。
 

産地視察(2日目)

サミット2日目の6月27日には、参加者は3コースに分かれて新潟県内の主要産地の現地視察ツアーに参加しました。各コースでは産地ならではの工夫や特徴を学ぶ貴重な機会となりました。

A
コース(魚沼方面 津南): 新潟県内有数のユリ産地である魚沼地域を訪問しました。まず(株)山喜農園の試験ハウスにて新品種育成や球根培養の現場を視察し、その後は魚沼花き園芸組合の栽培ハウスで大規模栽培の様子を見学しました。魚沼特有の高冷地気候を活かした栽培技術や、出荷調整の工夫について担当者から説明があり、参加者は熱心に質問を投げかけていました。山間地ならではの涼しい気候の中、生育中の色とりどりのユリが咲き誇る光景は参加者に強い印象を与えました。

Bコース(村上方面): 県北地域の村上市方面では、(有)近藤農園の栽培ハウスや農事組合法人クラインガルテンの施設を訪ねました。生産者自ら案内役となり、品種ごとの栽培方法の違いや病害虫対策、品質管理のポイントなど実践に即した説明が行われました。村上地域は夏季の出荷を担う産地として知られており、参加者は旬の時期に安定して良質なユリを生産するノウハウに触れることができました。視察中、土壌づくりから収穫・出荷まで一貫した取り組みに対し、多くの参加者がメモを取りながら頷く姿が見られました。
Cコース(新潟市西・南区方面): 新潟市内の西区および南区の産地を巡りました。まず西区赤塚地区の砂丘地に広がるユリ球根生産ほ場を訪問し、海岸砂丘を利用した球根栽培の現場を見学しました。砂地ならではの排水性の良さと日照条件を活かした球根生産は国内でも珍しく、参加者からはそのスケールと効率性に驚きの声が上がりました。続いて南区ではベテラン生産者・諏訪間春幸氏の栽培ハウスを訪れ、最新の施設栽培技術や周年出荷体制について学びました。温度管理や人工照明による開花調整の実演も行われ、都市近郊型農業の強みを活かした高品質生産の取り組みに参加者は感心していました。

 

各コースとも視察後には意見交換の時間が設けられ、参加者同士や地元生産者との活発な質疑が交わされました。「産地ごとにこれだけ工夫が違うとは勉強になった」「自分の産地にも持ち帰りたいヒントが多かった」等の声が聞かれ、現地視察は大変有意義なものとなりました。
 

Aコース

Aコース

サミットの意義と今後への展望

今回の全国ゆりサミットは、日本国内のユリ産業関係者が一堂に会し情報共有と交流を図る貴重な機会となりました。その中で、新潟県という国内トップクラスの産地で開催された意義は大きく、産地現場の熱量や先進事例を直に感じることで参加者の士気も大いに高まりました。基調講演やパネルディスカッションを通じて示された次世代へ向けたビジョンは、今後のユリ業界が進むべき方向性を示す指針とも言えます。とりわけ、「希望のゆり」というテーマに象徴されるように、業界全体で協力して新しい価値を創造し次世代へ繋げていく「共同作業」の重要性が再認識されました。


最後に、本サミットを支えた日蘭のユリ関係者のみなさん、ボランティアの尽力、地元の協力により円滑な運営が実現し、ユリの魅力を発信する絶好の機会となりました。閉会にあたり、「このサミットをひとつの出発点として、日本のユリ産業が希望を持って次世代へ続いていくことを願う」という力強いメッセージが主催者から送られました。参加者一同、その思いを共有し、それぞれの地域へ戻ってからの活躍を誓い合いながら新潟の地を後にしました。